米国の北朝鮮政策

米国の北朝鮮政策「バイデン政権の対北朝鮮政策見直しは「Calibrated, practical approach」。Calibratedとは「目盛定めで校正する」の意味。北朝鮮と調整し、測定可能な目盛の(段階的な)現実的なアプローチです。オバマ政権は、戦略的忍耐「鳴かぬなら鳴くまで待とう北朝鮮」の家康型の『戦略的忍耐』で、核開発やミサイル実験が続けられました。トランプ政権は包括的取引「鳴かぬなら殺してしまえ北朝鮮」の信長型の『一発勝負』で、はったりのつばぜり合い劇のでドタバタで終わってしまっています。バイデンは、「鳴かぬなら鳴かして見せよう北朝鮮」という秀吉型の知恵のある幅広い外交でのアプローチで臨もうとしています。バイデン政権は、民主党のオバマ政権での外交に習熟した閣僚やスタッフを集め、知恵と経験の外交戦略を構築し、「バラク・オバマ元政権やドナルド・トランプ前政権の犯した過ちは繰り返さないぞ」という決意で臨んでいます。2 北朝鮮の反応は?アメリカのバイデン大統領は、議会で初めての施政方針演説で北朝鮮を深刻な脅威だと批判しました。北朝鮮の外務省のクォン・ジョングン米国担当局長は、「われわれは米政権の対朝鮮政策に相応な措置をやむを得ず講じなければならない。米国は深刻な状況に直面するだろう。」と反論しましたが、米国のメッセージに、最初に反応を示したのが北朝鮮外務省の米国担当局長という局長レベルで、米国の次なる行動とメッセージを待っています。シンガポールやハノイでの米朝交渉での「核廃棄と制裁」のトランプゲームの続きで、寧辺廃棄と国連制裁中止の低いところから始めるつもりで、「プンゲリ、トンチャンリ実験場」の持ち札と「ICBMの火星15号やSLBM潜水艦発射弾道ミサイル・北極星4号」の切札で交渉をすると思いますが。北朝鮮は、コロナの影響も深刻で、中国との国境を閉鎖したままであり、経済状況は極めて深刻な状態にあります。米国は、北に二度とチャンスを与えないつもりで「朝鮮戦争の終戦宣言と国交正常化」の切り札を餅ながら、「核施設廃棄や核物質生産中止」のカードを段階的に出して、非核化に到達する「現実的なアプローチ」をとると考えられます。3 米朝交渉のアプローチは?今回は、公式に、「Calibrated, practical approach・調整した測定可能な目盛りのついた現実的なアプローチ」としたのは、長期的で段階的な非核化交渉を進めていくつもりです。もとおり、金正恩氏は、核兵器を破棄するつもりはありません。だから強力な対北朝鮮プレッシャーをかけ続けない限り、北朝鮮は交渉に真剣には応じようとしないのです。第1ステージとしは、日本、韓国、中国、ロシアと認識と方針を合わせることですが、中でも半島の隣国、韓国の動きがカギとなります。5月21日の米韓首脳会談から、北朝鮮への交渉の合意事項のアプローチが始まりますが、ムンジェイン大統領は、演説で「 対北朝鮮政策をより緊密に調整し南北間米朝間の対話を復元し平和協力の一歩を再び踏み出すための道をつける」 として、最重要課題として北朝鮮との対話再開に意欲を示しております。 また、韓国が、中国を脅威とするバイデン政権のアジア戦略には慎重です。米国が、中国包囲網であるインド太平洋構想にも参加するかどうか、 それ以前の問題として、韓国と日本との関係改善の問題も安全保障では影響が大きく、米国は、韓国に強く、慰安婦や徴用工の問題の解決を促す見通しです。ムンジェイン大統領の任期は、本日、あと1年を切リました。国内的には、すでにレームダックし、南北対話に最後の活路を求めています。その上で、朝鮮半島の非核化に向けたアプローチが決まって来ますが、 北朝鮮への影響力はきわめて限定的です。4 北朝鮮が交渉に応じた場合の見返りは?2019年2月のハノイでの米朝首脳会談で、金正恩氏は、「寧辺の放射化学研究所とその関連施設の閉鎖」を提案しました。その見返りは「国連安保理決議の破棄」でしたが、トランプ氏は合意する一歩手前で、急遽駆け付けたボルトン補佐官の進言を聞き入れて、「あくまでも核兵器とミサイルの全廃である」と主張し、交渉は決裂しました。バイデン政権の米朝非核化交渉は、ここからスタートするでしょう。「寧辺の閉鎖」は北朝鮮にとっては重大な価値を持っており、北朝鮮はプルトニウムやトリチウム・ガスといった核兵器製造には不可欠な物質を生産できなくなります。また寧辺は、「高濃度ウラニウム(HEU)を生産可能だと国際原子力機関(IAEA)が認定できる唯一の施設」となっており、「核廃棄に向けた第1ステージとは、「寧辺閉鎖と同時に北朝鮮の他の核濃縮・生産活動すべての停止」から始まるでしょう。5 その際の交渉材料は?① 「段階的にすべての核濃縮・生産の完全停止を約束すること」② 「北朝鮮にある核関連施設を公表すること」③ 「核分裂性物資製造を北朝鮮全土で禁止することを明言すること」④ 「寧辺以外の核関連施設と疑惑のある他の施設について、IAEAによる査察・監査を受けれること」⑤ 「豊渓里核実験場や東倉里ミサイル発射場の核実験と長距離ミサイル発射実験を公式かつ半永久的禁止すること」⑥ 「北朝鮮の核関連物資および技術の他国への輸出を全面禁止すること」⑦ 「北朝鮮の完全かつ立証可能な非核化へ向けた交渉を行うこと」などを求めていくべきでしょう。これらの合意事項を北朝鮮が受け入れて初めて交渉が始まり、その各段階で国連安保理や米国が北朝鮮に課している制裁措置を緩和し、朝鮮半島での米軍事力を徐々に縮小・削減させるように進めて行くべきです。6 日本のの対応は?茂木外相は、日米外相会談後の記者会見で、「北朝鮮の完全な非核化をCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)という目標を堅持しています。弾道ミサイルの直接的脅威にさらされているからです。しかし、バイデン政権のホワイトハウスのジェン・サキ報道官は、米国が追求する目標は、「北朝鮮の非核化」ではなく、「朝鮮半島の非核化」(complete denuclearization of Korean Peninsula)と言いました。米国のジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)も、「朝鮮半島の完全な非核化」を推進すると発言し、ブリンケン国務長官も、米国の目標が「朝鮮半島の完全な非核化」であることを再度強調しています。米韓外相会談では、「米韓日の3カ国協力を通じて朝鮮半島の完全な非核化を推進する」と記載した文章もあり、実用的な北朝鮮に対するアプローチ」という表現を使っています。また、拉致問題という人権侵害問題はまだ解決していません。日本と米国、韓国、北朝鮮の認識の違いは大きく、日本としては、より現実的に対応していかないと、出てくる結果において、評価や認識が分かれるものとなってしまいます。政府は日米で緊密に協議をして、我が国の国益に関することは、我が国独自で日朝交渉し、北朝鮮の非核化、拉致問題や経済問題が進展するよう、全面で取り組むことが大事です。7 結言78歳のバイデン大統領に比べ、北朝鮮の金正恩は37歳。あと、40-50年は国家元首であり続けるつもりです。今回の米国の戦略に対しては、慎重に分析し、反応し、チャンスだと思ったら飛びつくでしょう。しかし、北朝鮮は、今後の発言だけでなく、これから数日から数か月間、実際にどういった行動に出るか、注視しておく必要があります。とにかく必要なのは、「米国の見直し案に盛られた外交解決を望むか否かは、北朝鮮が決断することであり、外交を通じて朝鮮半島の完全な非核化という目標へ進む方策がほかにあるかどうか亅北朝鮮はこのチャンスをつかむしかありません。