バイデン大統領が「8月までに米軍をアフガンから撤収する」と宣言してから4か月でタリバンが全土を制圧したのは、アフガニスタンの極貧にある国民の人心がガニ政権から離れており、汚職で政府軍の士気や規律も低下し、大統領や政府高官がわれ先に国外に脱出し、政権を放棄したからです。バイデン大統領は、6月にガニ大統領にタリバンと和平交渉を促したが「アフガン軍がしっかり戦う」と拒否されたが、それは誤りであったと、見通しの甘さを悔やんだ声明を発表しましたが、撤収は敗走であり、対テロ活動のタリバンとの戦いは敗北に終わりったのです。9.11米国同時多発テロから20年。当時、私は防衛庁長官でしたが、海上自衛隊の3隻の艦艇をインド洋に派遣し、洋上燃料補給によって不朽の自由作戦に参加しました。多国籍軍への支援であり、我が国の生存と繁栄にとって重要な輸送路であるインド洋の海上交通の安全にも貢献し、国際社会によるテロとの闘いの一翼を担い、国際社会の連帯において責任を果たし、大きな成果と評価を得ました。アフガニスタン国内では、米国とその同盟国がタリバンを政権から追い出す国際治安支援部隊(ISAF)と「不朽の自由作戦」が遂行され、カルザイ政権のもとで、日本は武装解除や産業経済の育成や雇用、治安での警察官養成に貢献しました。これまで20年間やってきたことが無になってしまいましたが、国際社会とともに、対テロ撲滅戦略を練り直し、アフガニスタンの平和構築と安定に努力していかなければなりません。タリバンは「女性は社会の鍵であり仕事や他の活動でも女性にはすべての権利が与えられている。ただし、あくまでイスラム法の枠内で。」と、女性を守ろうという意識は持っていますが、タリバン主力を占めるパシュツーン族には、「女、金、土地の争いのもとを断つべし」という独特の掟があり、この教えがイスラム法の枠内かどうかは、タリバン政権で評議委員会の各部族代表で議論されることになりそうです。今、アフガニスタン人が恐れているのは、自由と権利が失われること、女性への差別、政府に協力してきた人物の捜索と復讐であり、殺されてしまうという恐怖です。各国の大使館は、直ちに閉鎖・撤収し、国外出国しましたが、多くのアフガン人の現地雇用者や通訳が取り残されたままで、ビザの発給を求めて、空港に殺到しています。「一人の人も取り残さない。」と、米国、ドイツ、イギリス、イタリア、スペインなどのNATOは倫理観をもって、大使館で雇用していた職員や家族、国連関係者の国外退避をさせるため救出活動を続けると言っていますが、国外退避の対象者は、5万人以上あり、G7(主要7カ国)外相会合や米国から、日本に、出国・退避への協力や自衛隊の支援、政府専用機や自衛隊輸送機の派遣が求められています。今回、日本政府は自衛隊をアフガニスタンへ派遣していませんが、自衛隊法では自衛隊も海外で危険に瀕している日本人を国外に退避させるための措置を講じることができ、外国人を同乗させることもできます。「在外邦人等輸送」(自衛隊法第84条の4)と「在外邦人等保護措置」(自衛隊法第84条の3)で、外務大臣から防衛大臣に対する依頼があれば、自衛隊が日本人と外国人を国外に退避させることができるという規定があります。まだ、アフガニスタンには、日本人や大使館に雇用されて出国を求めている人が取り残され、国外に避難を求めている人が殺到しています。アメリカ政府も、アフガニスタンにいる民間人の国外退避を支援するため、日本政府に対して自衛隊の派遣を含む協力を要請しています。それに対応するための法的根拠となる規定が平和安全法制の枠組みではないでしょうか。積極的な運用を検討し、国際協力や人道支援の枠組みを活用し、人材を派遣して、この問題をクリアしていかねばなりません。できないなら法律を改正する必要があります。日本は、これまでアフガニスタンに、2001年以降、武装解除や産業経済振興政策など7000億円の支援をしてきました。この事態を受け今後、日米は戦略を練り直し、この地域が平和で安定したものになるよう、欧州やインド、パキスタン、トルコ、中東諸国の人的パイプを活かして、長期的視野に立った戦略を練って対応していかなければなりません。その際、Natoや日米安保での外交官・大使のOB、学識者など、多くの人材を活用し、国家安全保障局でチームを編成し、情報収集と分析して、国際社会から評価できる実務的な行動できるようにしなければなりません。9.11の同時多発テロ事件から20年、外務省はアフガニスタン政策に何もしないでいるわけにはいけません。