真の国家緊急事態とは何か。

欧米では、コロナウィルスの感染拡大を防ぐために、完全に交通機関を遮断し、店舗の閉鎖や外出を禁止するロックダウン(都市封鎖)を実施し、人と人の接触を罰則付きで制約をかける憲法や法律がありますが、我が国は、強制的な罰則付きの外出禁止や都市封鎖の規定がなく、「3密(密接・密集・密着)を避けよう」との自粛や要請、罰則のない指示で対処しています。

緊急事態とは、緊急事態の宣言によって、国内の法律を停止し、国家元首に権限をもたせて、国家が国民を守るために、罰則をもって行動を規制し、統制することを可能とする規定です。

フランスでは、憲法第38条に政府の委任立法権限に基づく制度(オルドナンス)があり、授権法案を制定することができます。子供との散歩やスポーツのための外出は、1日に1回1人で、最長で1時間、自宅から1キロメートル以内の範囲に制限され、通院も緊急な場合に限るとし、外出時に携帯を義務としています。違反行為への罰則は、罰金に加え、6カ月以下の禁固刑があります。マルシェ(スーパーマーケット)も禁止です。

米国では在宅勤務を義務づけ、大統領や州政府が非常事態宣言を出して、外出と財政の規制ができます。英国では買出しを除く外出が禁止。イタリアは、原則外出禁止で、外出には理由を書いた証明書の携帯が必要です。ドイツでは緊急事態基本法案があり、3人以上の外出が禁止され、土地を収容して、仮設病院を建て、拠点病院にICU治療室の強制集約を行っています。

アジアでも、中国、韓国、インド、タイ、フィリピンでも厳しい制約をかけて、感染症の拡大を防いでいますが、日本以外は強制力を伴う緊急事態の法整備がしっかりとされているのです。これは、国民の自由勝手な行動によって感染が拡大してしまうので、行動を統制することによって、国民の命を守るためなのです。

日本も緊急事態における法律はありますが、戦後、法律によって、非常事態の私権を制約したことは、東日本大震災の津波による福島原発事故の際に、原子力災害対策法によって周辺住民の避難指示で強制退去の例が一度だけありました。

今回の「新型コロナ対応の特別措置法」は、事業者に物資の保管や土地建物の強制使用ができますが、一般国民の外出や会合や大会の開催の自粛要請(強くお願いすること)や事業者の営業、時間制限の指示(罰則なし)がかけられますが、強制で外出の禁止や営業制限はかけられません。

日本は、なぜ、緊急事態においても要請止まりなのか。それは戦前の国民総動員法によって、言論や思想の自由が奪われ、人権や生存権が制限された歴史があるからです。

戦後の憲法には、基本的人権、国民の自由、主権が強く規定されており、日本国憲法第十三条には、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」とあり、災害対策基本法の緊急災害や武力攻撃事態対処法や国民保護法案、自衛隊法の防衛出動や治安出動には、「個人の自由や基本的人権を尊重し」とか「行動は必要かつ合理的な範囲」という要件が入っています。

これでは、命令によって対処を行う人々にとって緊急事態での対応があいまいで迅速に構想できず、要望に答えた国民の財産や民間企業の営業利益、固定費の損失補填も規定されていません。危機管理は、いざという時、判断をする人が明確に判断し、迷いなく、迅速に対応できなような規定にしておかねばなりません。

世界史上初めて国民総動員体制を採用したのは、フランス革命戦争期のフランスで、「国家総動員」という言葉で、戦争計画を前提とした法律によって強制することで、生産効率を上昇させ、軍需物資の増産を達成し、また、国家が生産の円滑化に責任を持つことで企業の倒産を防ぐことを目的としたものでありました。

1938年(昭和13年)8月には、我が国において、国家総動員法が制定され、大東亜戦争(日中戦争)の長期化による総力戦の遂行のため国家のすべての人的・物的資源を政府が統制運用できる(総動員)旨を規定され、労働者の雇用、解雇、賃金、労働時間などが統制され、物資動員計画で重要物資は軍需、官需、輸出需要、民需と区別して配当され、軍需が優先され、民需は最低限まで切り詰められたことがあります。まさに非常事態であったのでしょう。

1945年(昭和20年)の敗戦によって新憲法が制定され、日本国憲法第十一条で、「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。」とあり基本的人権が保障されることと同時に、自由の権利の保持義務と公共福祉性には、憲法第十二条で「憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民は、これを濫用してはならず、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」と公共の福祉の責任が規定されました。

また、個人の尊重と公共の福祉については、第十三条で、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」とあり、これによって、緊急事態では、強制を伴う私権を制限する法律は作ることが可能とされています。
それに伴う請願権については、憲法第十六条で、「何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有す。」と規定されており、公務員の不法行為による損害の賠償も、第十七条で、「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。」とあります。

この憲法において、緊急事態における私権制限ができる法律は、警察法に基づく緊急事態の布告や災害対策基本法に基づく災害緊急事態の布告があり、災害対策基本法109条で、「災害緊急事態、国の経済の秩序を維持、公共の福祉を確保するため緊急の必要がある場合、内閣は、必要な措置をとるため、政令を制定することができる。これに違反した者は、二年以下の懲役・禁錮、十万円以下の罰金、拘留、科料・没収の刑を科すことができる。災害緊急事態に際し、被災者の救助、受入れについて必要な措置をとるため、政令を制定することができる。』と、内閣総理大臣に権限を集中させる法律や都道府県知事や市町村長に強制的に執行する権限、罰則が設けられておりますが、公共の福祉を確保するため緊急の必要がある場合に限っており、曖昧で、統一見解が示されておらず、判断に迷うものです。

災害時に自衛隊が出動した際に、ガレキ処理ができるかどうか議論になりますが、災害対策基本法64条2項には、「市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生し、又はまさに発生しようとしている場合において、応急措置を実施するため緊急の必要があると認めるときは、現場の災害を受けた工作物又は物件で当該応急措置の実施の支障となるものの除去その他必要な措置をとることができる。」とあり、地方への国の法定受託となっており、市町村長が行うことができない場合には、国が権限を代行することも可能ですが、いずれも。

最後に、国家が、国民の命を守ることについての国民の生存権については、憲法第二十五条で、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と書かれていますが、外国は、国家がしっかり生き残ること(ナショナルセキュリティー)権利が書かれています。個人の権利が書かれていますが、国家の生存権も緊急事態での権限もかかれていません。『国家が存在すること』これは、いくら個人の人権が重要でも、それを守ることができる国家が、危機に際して、混乱し、崩壊してしまえば、国民の生命、財産や人権も守ることができないということです。

国家緊急権とは「平時の統治機構をもっては対処できない非常事態において、国家権力が、国家の存立を維持するために、立憲的な憲法秩序を一時停止して非常措置を取る権限」のことであり、諸外国の憲法における緊急事態条項とは、『国家緊急権を憲法に創設する条項』であり、『平時の統治機構をもっては対処できない非常事態において、国家権力が、国家の存立を維持するために、立憲的な憲法秩序を一時停止して非常措置を取る権限』です。

今回の、コロナ対策での国民の意識は変わってきて、憲法に緊急事態条項を設けるべきという人が68%に達しました。
「平時に有事の対処を準備しておく。」この際、真の緊急事態の国家の安全や地方との関係や国民の生存権を議論し、憲法改正や緊急事態基本法を制定しておくべきです。