今年、1月から4月の間に、尖閣諸島の接続水域に中国公船の侵入日数が、前年の74日から、111日へ1.5倍増、ほぼ毎日、接続水域に侵入し 、領海侵入の回数も急激に増えています。
5月8日、午後4時、中国海警局の機関砲を搭載した中国船4隻が2時間にわたって我が国の領海に侵入し、うち2隻の海警が操業中の日本漁船を追いかけ、海保は警備していた巡視船が割って入り、警告したら、中国海警船は、「中国の領海で違法操業は許さない。海保は邪魔するな」と発言、領海から出た。
9日も、4隻は尖閣の接続水域を航行、うち2隻は午後6時ごろ領海侵犯したが、今年9日目で、2日連続、現場は一時、緊張状態になり、海上自衛隊のP3Cや航空自衛隊のE-2C早期警戒機も出て、厳重な警戒監視活動をとりました。
今、新型コロナで、国際社会が緊密な連携が特に求められる中で、発信源の中国側から、このような挑発行動をするのは、非常識で、厳に慎むべきであり、政府は中国政府に抗議しましたが、中国は、「日本の漁船は中国の領海で違法に操業していたため海域から出るよう求めた。日本の海上保安庁の違法な妨害にも断固として対応した。日本側に中国の主権を侵す行為を直ちに停止するよう求める。この問題で新たな争いごとを作り出さないよう、実際の行動で東シナ海情勢の安定を守るよう求める。」と、日本側の姿勢を非難しました。
中国が、このような動きを何故するのか
①新型コロナ等の影響で中国経済が失速、習近平体制が国内の不満をそらすために、日本に対して強硬な姿勢を示した。
②海警局による、中国の領海内の外国漁船の取締り強化という方針に基づいて発生。
1ヶ月ほど前に、同海域では、中国の漁船が、我が国の護衛艦に衝突した事案もありました。
③今回、海警船が日本の漁船を追尾したのは、毎年5月の初めから8月の中旬まで、中国は、漁業資源と海洋環境の保全を理由に、東シナ海、南シナ海、黄海の広い海域で休漁期間を設定して、違法操業の取締りを行ってますが、今年は、外国漁船も「弾圧」の対象としたようですが、日本は、決して怯んだり、遠慮したり、後退してはなりません。
今回、海警船が3日間、領海内に留まったこと、中国政府が「日本の漁船が領海内で違法操業をした。」と主張したことも初めてのことであり、今後、このような既成事実を積み重ね、挑発をしてくるものであり、一過性ではありません。
④近年、中国海警船の大型化が進み、乗組員の操船技術も向上して、海警は中国軍の指揮下に入って、遠洋での作戦を熟知した現役の海軍将校が海警局を指揮するようになりました。
今後も、中国の海警船が我が国の漁船を狙った時に、実際に領海内で海警船が日本の漁船に乗り込むような事態が発生した場合を想定して、対応可能な体制にしなければなりません。
4月11日、中国海軍の空母「遼寧」艦隊が、「ルーヤンⅢ」級ミサイル駆逐艦、「ジャンカイⅡ」級フリゲート2隻、「フユ」級高速戦闘支援艦、駆逐艦が、沖縄本島と宮古島間の宮古海峡を通過し、東シナ海から太平洋に進出しましたが、台湾海域でも、威嚇的行為を続けており、今後も、中国は、太平洋での訓練や日本の領海内や国際海峡で、領海侵犯の回数、滞在時間、隻数をさらに増やしていく事になります。
また、南シナ海では、中国が実効支配を一段と強め、周辺海域で違法操業の取り締まりを一方的に強めており、ベトナムが5月8日に抗議声明を出しましたが、中国は国際法に違反してサンゴ礁を埋め立て、基地やレーダーなどの軍事施設や行政監視施設を設け、空母「遼寧」をはじめとする艦隊がミサイル発射訓練を実施し、着々と、その権限と支配を強化しています。
昨年12月17日、中国の初の国産空母「山東」が、南シナ海に突き出した海南島基地に配備され、すぐに南方に空母打撃群を展開できるようになりました。中国は、南シナ海と台湾における米国の圧力に対抗するため、空母を展開したかったのでしょう。
さらに原子力空母建設に向けて着実にステップを踏みつつあリ、南海艦隊に空母打撃群を加えた理由は、
①「一帯一路」構想に基づいた「空母外交」の展開であり、経済活動および海上輸送を保護するために、インド洋から西の海域において軍事プレゼンスを示すこと。
②米中核抑止の攻防最前線である「南シナ海」の専有であり、華人が投資する地域や駐在する国の対中関係を改善し、反中や中国排斥といった事象の出現を回避するのに有効な手段であること。
③A2ADによる台湾、日米や東南アジア、インド、中東へなどの地域において、空母の軍事プレゼンスを示し、影響力を行使することによって、中国の経済活動を有利に展開しようという戦略があります。
中国の空母外交は、対等な米中関係を構築するため、核兵器と空母を保有し、米国に対中軍事力行使を思い止まらせる相互確証破壊で米軍をコントロールし、敵の第一撃後に残存する可能性を高くするためです。
米国に対する核抑止として、戦略原潜から発射される弾道ミサイル(SLBM)は、南シナ海から撃ったのでは、米国本土をカバーできないので、中国の戦略原潜は、米海軍の探知を回避して太平洋に出られるよう、南シナ海から米海軍の活動を排除したいと考えています。
昨年12月22日、中国海軍がJL-3の発射実験を行いました。JL-3は、射程1万2000㎞、最大10個の核弾頭を搭載できます。096型潜水艦は、太平洋に出ることなく、南シナ海からJL-3で米国本土をカバーすることができます。096型潜水艦は静粛性も向上しており、中国はより効果的な対米核抑止能力を持つことになります。
米中の対立の焦点は台湾であり、米国は「インド太平洋戦略」を立てて、台湾に総額22億ドル(約2400億円)の武器装備品の売却を承認、F-16V戦闘機66機を売却決定しました。売却総額は80億ドル(約8500億円)に上ります。
中国の危機感の背景には、香港情勢があり、「一国二制度」に対する信頼を完全に失った台湾の人々が独立志向の蔡英文総統を支持し、蔡英文総統が再選され、自国の誇りや実力を回復していることに脅威を持っています。
今後、南シナ海とバシー海峡は、米国と中国が核抑止を巡って攻防を繰り広げる海域となりますが、中国海軍が、北海艦隊と南海艦隊に空母打撃群を保有すると、台湾東側海域において、米国空母打撃群の接近をけん制し、東南アジアから中東、ヨーロッパに至る地域に軍事プレゼンスを示すことができるようになります。
米中ともに直接の軍事衝突を避けたいと考えている状況で、日本も中国の軍事プレゼンスに対抗できる政治的メッセージを発信できなければ、米中の対立にただ巻き込まれることになってしまうでしょう。
政府は2023年度までに海上保安庁の大型巡視船を12隻増やしますが、自衛隊の南西諸島での防衛体制を整え、沖縄、東シナ海が主体となる列島線防衛の体制をさらに強化する必要があります。
ところが、沖縄の在日米軍再編移設で、辺野古の埋め立て海域東側の軟弱地盤のため、公有水面埋立法に基づく設計変更を県に申請しました。軟弱地盤に対応するため、工期を当初想定の5年から約9年3カ月かかり、事業完了に約12年、普天間飛行場の返還は、30年代以降にずれ込みとしていますが、県は設計変更を認めない構えで、さらに時間がかかりそうです。
日本の最西端は、沖縄県与那国島であり、最東端は南鳥島まで3146km。最南端は、沖ノ鳥島で、最北端の択捉島まで2787kmです。辺野古の基地の完成まで、中国の軍事情勢は、更に強力になっていくでしょう。それまでに、
①日米で戦略的な九州西南海域防衛・作戦計画を作り、新型ミサイル防衛や海域防衛を行う。
③沖縄に日米統合司令部、陸海空自衛隊の南西統合部隊の設置する。
⑤沖縄訓練場の共同管理、米軍施設の共同使用
⑦沖縄本島の陸上自衛隊の旅団から師団への昇格させ、沖縄での海兵隊司令部のあるキャンプハンセンに司令部を創設し、水陸部隊を移駐させる。
⑨航空自衛隊の那覇基地の拡張と宮古島の伊良部島空港の活用
⑪海上自衛隊のホワイトビーチへの基地建設
⑫南西諸島での極超音速滑空弾の迎撃部隊の設置
辺野古基地建設までの10年間に、南西正面の防衛体制を強化し、日米で協議をして中国の軍事的覇権に対する戦略や戦術を研究しておく必要があります。そのためににも、今から、普天間基地閉鎖後の沖縄、南西諸島の防衛プランを日米で協議する必要があります。